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津地方裁判所四日市支部 昭和58年(ワ)201号 判決

主文

一  被告らは原告に対し、各自金四三三一万四二四五円と内金三九三一万四二四五円に対する昭和五七年三月二日から、内金四〇〇万円に対する昭和五八年一〇月三〇日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用はこれを二分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

三  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自金九一四八万八三八三円と内金八三一八万八三八三円に対する昭和五七年三月二日から、内金八三〇万円に対する昭和五八年一〇月三〇日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五七年三月二日午後四時二〇分ころ

(二) 場所 三重県四日市市東坂部町三八一―三先国道三六号線上

(三) 加害車 軽四輪貨物自動車(三―四〇く六五三九)

右運転者 被告稲葉

(四) 被害者 普通貨物自動車(三―四四そ九六二六)

右運転者 原告

(五) 態様 信号待ちで停車中の被害車に加害車が後方から追突

2  原告の受傷

(一) 原告は本件事故により頸椎捻挫、腰椎捻挫、第七頸神経根(右)損傷、左足・前胸部打撲の傷害を受け、昭和五七年三月二日以降昭和五八年三月三日までの間左記のとおりの入通院治療を受けた。

(1) 入院

田中外科

昭和五七年三月五日から同年四月一一日まで三八日間。

昭和五七年七月一九日から同月二六日まで八日間。

市立四日市病院

昭和五七年一〇月二二日から同月二三日まで二日間。

(2) 通院

篠田外科

昭和五七年三月二日。

菰野厚生病院

昭和五七年三月三日。

田中外科

昭和五七年四月一二日から同年七月一八日まで。

三重県立総合塩浜病院

昭和五七年四月二七日から同年六月一八日まで。

破田野ほねつぎ院

昭和五七年五月一二日から同年六月二一日まで。

大阪市立大学医学部付属病院

昭和五七年六月二四日から同年七月三日まで。

市立四日市病院

昭和五七年七月二七日から同年一〇月二一日まで。

昭和五七年一〇月二四日から昭和五八年三月三日まで。

(二) 昭和五八年三月三日原告の症状は固定をみたが、左記のような後遺障害が残り、その右手指、腰部等の痛みに耐えきれずその改善のための対症療法として、右症状固定以後も市立四日市病院、破田野ほねつぎ院、宮沢内科への通院を余儀なくされている。

(1) 第七頸神経根(右)損傷に基づく右上肢尺骨神経領域における筋力低下、知覚障害。

右障害の結果右手中指、薬指、小指の三本の指及び挙から腕の外側部分が知覚純摩、しびれ、疼痛を起こし、血行障害を生じて痩せ衰えてきている。

原告はこのまま血行障害が続けば右部分が憤死するのではないかと不安である。また右手指部分の疼痛は特に激しく、今日に至るまで市立四日市病院等に通院を余儀なくされている。

右三本の手指は全く使用することができない状態で、重い物を持つことができず、従事し得る業務が極度に制限されているし、右障害は治療法がなく一生涯継続するものである。

(2) 腰部痛及び右膝機能不全

現在においても麻薬を常用していないと我慢できない程の腰部痛が残されているし、右膝の機能不全のため右足の運動性能が悪く、ちよつとした凹凸にも蹴つまずく有様である。

(3) 記憶力、判断力の低下、精神的不安定及び男性機能喪失。

3  被告らの責任

(一) 被告稲葉は前方不注視の過失により本件事故を生じさせたものであるから、民法七〇九条により原告の蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

(二) 被告四日市市農業協同組合(以下「被告組合」という)は加害車の保有者であり、かつ本件事故は被告の従業員である被告稲葉がその業務として集金におもむく途上前記過失により生じさせたものであるから、被告組合は自賠法三条もしくは民法七一五条により原告の蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

4  原告の損害

(一) 治療費 合計金二一万七二六四円

市立四日市病院 金一九万一六六四円

破田野ほねつぎ院 金二万五六〇〇円

昭和五八年五月以降受診の治療費で被告らから支払を受けていないものである。

右治療費は後遺障害確定後の治療費ではあるが、前記2の(二)で述べたとおり後遺障害による手指、腰部等の激痛に耐えきれず、その対症療法として治療を受けたものであり、かつ右治療なくしては日常生活が成立し得ないものであるから、当然被告らにおいて賠償すべき損害である。

(二) 入院雑費 金五万四六六五円

前記田中外科(四六日間)、市立四日市病院(二日間)への入院に際し要した交通費及び雑費の実額である。

(三) 通院交通費 金九万五三四〇円

昭和五八年五月以降の市立四日市病院への通院に要した交通費で被告らから支払を受けていないものである。

(四) 入通院慰藉料 金二三〇万円

昭和五七年三月二日以降昭和五八年三月三日までの入通院慰藉料(うち入院四八日間)である。

(五) 休業損害 金一三五〇万九九〇一円

原告は三重陶業の屋号で妻しづへのほかパートタイマー八人を使用して陶器製造業を営むもので、本件事故前の昭和五三年から昭和五六年までの四年間の売上金額及び純利益は後記のとおりであり、原告は本件事故当時年平均一三五〇万九九〇一円の収入を得ていたことになるところ、本件事故による前記受傷のため昭和五七年三月二日から昭和五八年三月三日までの一年間にわたり就労できなかつた。このため本件事故後は妻しづへが原告の代役として事業の指揮をとつたが、窯の操作は長年の年季を必要とする仕事である等により、その営業を維持することは難しく、結局昭和五七年は金五七〇万円もの赤字を計上し、昭和五八年一月以降も毎月赤字を計上しており、原告が右就労できなかつたことにより蒙つた損害は、前記平均年収額に相当する金一三五〇万九九〇一円である。

昭和五三年

売上 六六三一万七二四七円

利益 一六二四万二四八六円

昭和五四年

売上 六一九六万〇五五六円

利益 一三六五万八五一六円

昭和五五年

売上 七〇七八万〇七八九円

利益 一四一二万七七二七円

昭和五六年

売上 五六八八万三九五三円

利益 一〇〇一万〇八七七円

右四年間の

年間平均売上 六三九八万五六三六円

年間平均利益 一三五〇万九九〇一円

(六) 逸失利益 金七四三〇万一二一三円

原告の症状は昭和五八年三月三日固定をみたが、前記のような後遺障害が残り、このため原告がなし得るのは完成品へのシールの貼りつけといつた極めて軽易な作業に限定され、重い荷物を持ち運びすることはもとより窯の管理や商談を原告にまかせることは到底できない状況にある。原告の右就労状況及び前記後遺障害の部位程度等に鑑みると原告の後遺障害は控え目にみても自賠法の後遺障害等級七級四号「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外に服することができないもの」に該当することは疑いがなく、従つて原告の労働能力喪失率は少くとも五六パーセントとなる。

原告は昭和三年七月五日生れで症状固定時満五四歳であつたから、本件事故による後遺障害がなければ満六七歳までの一三年間前記平均年収金一三五〇万九九〇一円の収入を得られるはずであつたから、その逸失利益の現価をホフマン方式(ホフマン係数九・八二一)により求めると金七四三〇万一二一三円となる。

13,509,901円×56%×9.821=74,301,213円

(七) 後遺障害慰藉料 金七〇〇万円

(八) 損害のてん補

右(一)ないし(七)の損害合計は金九七四七万八三八三円であるところ原告は被告らから右のうち金一四二九万円の支払を受けたのでその残額は金八三一八万八三八八円である。

(九) 弁護士費用 金八三〇万円

(一〇) 以上の損害合計 金九一四八万八三八三円

5  よつて原告は、被告ら各自に対し、右金九一四八万八三八三円と右のうち弁護士費用分を控除した金八三一八万八三八三円については本件事故発生日である昭和五七年三月二日から、弁護士費用分金八三〇万円については本訴状送達の後である昭和五八年一〇月三〇日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2の(一)及び同2の(二)のうち原告の症状が昭和五八年三月三日固定したこと、原告に第七頸神経根(右)損傷に基づく右上肢尺骨神経領域における筋力低下、知覚障害の後遺障害が残つたことは認め、その余の同2の(二)は争う。

3  同3は認める。

4  同4のうち、被告らが既に金一四二九万円を支払つたことは認め、その余は争う。

三  被告らの主張

1  原告の本件事故前の収入について

原告は、本件事故前の昭和五三年から昭和五六年までの陶器製造業による収入は合計金五四〇三万九九〇六円にも達しその年平均収入は金一三五〇万九九〇一円と主張する。

しかし原告の右四年間の申告収入額合計は金一〇二〇万一五六四円に過ぎず、原告が右申告額の五・二九倍もの収入があつた旨主張するにつき更正申告手続をなしているならばともかくもこれもなさず単に裏帳簿等を提出するのみでは到底これを措信することはできない。また原告の営業は四日市市のいわゆる地場産業である陶器製造業であるが、その営業規模は一言でいえば家内工業の域を出ず、数名のパートをかかえて細々と息長く営業を続ける典型といえる。万古焼の窯屋は俗に大名から乞食へといわれ、従来よりその経営の振幅は著しく大きく、倒産、再興そして倒産に至る経営者も決して珍しくなく、貿易製品より内地物を扱う業者はこの大きな経営の波を回避して長期にわたつて小利を追うのがほとんどであり、原告もその例にもれないものである。従つて原告の事故前の収入の主張は到底信用できず、原告の休業損害、逸失利益は賃金センサスによる平均賃金に基づいてこれを算定すべきである。

2  原告の後遺障害の程度と労働能力喪失率について

原告が後遺症として主張するうち第七頸神経根(右)損傷に基づく右上肢尺骨神経領域における筋力低下、知覚障害は自賠法の後遺障害等級一二級相当であり、原告が後遺症として他に主張するものは仮にこれが認められるとしても心因性素因、既往症の影響を否定できず、結局原告の労働能力喪失率は、症状固定以降五、六年間につき後遺障害等級一一級相当の二〇パーセント程度が認められることはあり得ても長期的には右一二級相当の一四パーセントを上回るものではない。

3  代替労働の提供による弁済

被告組合は、本件事故後原告から男子代替労働を提供してほしい旨の申入れを受けて、製陶会社に勤務していたことのある被告組合の従業員訴外堀内英一を、昭和五七年三月六日から同年六月一八日まで実日数四七日間原告の陶器製造業に従事させた、その間被告組合は訴外堀内に対し一日当り金七二〇〇円の給与を支払つたので、右代替労働の提供により被告組合は合計金三三万八四〇〇円(7,200円×47日)を弁済したものというべく、右金額も既払分として損害額から控除すべきである。

四  被告の主張に対する認否

被告の主張1、2は争う。

第三証拠

証拠関係は、記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1及び同2の(一)の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで原告が同2の(二)で主張する本件事故による後遺障害につき検討する。

原告の症状が昭和五八年三月三日固定をみたこと、原告に第七頸神経根(右)損傷に基づく右上肢尺骨神経領域における筋力低下、知覚障害の後遺障害が残つたことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実、成立に争いのない甲第二号証の一ないし七、第一四号証、第一六号証、第一七号証の一ないし一五九、第一八号証、乙第一号証の一ないし八、証人田中丈二、同須藤敏浩、同坂野達雄、同水谷しづへの各証言、原告本人尋問の結果、鑑定人坂野達雄の鑑定の結果を総合すると、本件事故による原告の傷害は昭和五八年三月三日症状固定したが、なお以下の1ないし3のような後遺障害が残つたことが認められる。

1  第七頸神経根(右)損傷に基づく右上肢尺骨神経領域における筋力低下、知覚障害。

右手中指、薬指、小指の三指の知覚鈍摩、しびれ、疼痛が著しく、重い物を持つことができないばかりか、食事も箸が使えずもつぱらフオークを使用し、かつ二、三度休憩をとりつつ食事をするといつた有様である。また疼痛に関しては現在も市立四日市病院に通院し鎮痛剤の投与等を受けている。

右後遺障害は前記のとおり第七頸神経根(右)損傷に基づくものであり回復の見込みはなく一生涯継続すると見込まれる。

2  外傷性頸部症候群

症状固定時原告は頸痛、頸部痛を訴え、症状固定以降も前記手指の疼痛とあわせ、市立四日市病院に通院し、鎮痛剤の投与等をを受けていたが、頭痛、頸部痛は現在では軽快し、首筋のつつぱり感を訴える程度である。

3  記憶力・判断力の低下、精神的不安定及び男性機能喪失。本件事故を契機として発症したもので本件事故がなければ発症はなかつたものと推認できるので本件事故との因果関係は肯認できるものの、原告は本件事故時生殖器官系の直接損傷や意識障害をきたすような中枢神経系の損傷は受けていないし、その後の診断によつても右系統に器質的な異常所見は認められておらず、右各症状は心因的要素が加わつて本件事故を誘因として発症したものである。従つて右症状のいずれについても将来の回復可能性は残されているが、原告の年齢が症状固定した昭和五八年三月三日時点で既に満五四歳であること、現在でも右症状の改善は認められないこと、原告の性格等に鑑みると現実に回復することはかなり困難と思料される。なお記憶力・判断力の低下及び精神的不安定の程度は病的な程に顛著なものではないが、後記四の4で認定のとおりその業務遂行に障害を与えている。

なお、原告は右認定の外に本件事故による後遺障害として腰部痛及び右膝機能不全を主張し、証人水谷しづへの証言、原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分が存するが、にわかに措信できず、かえつて前掲各証拠(但し右措信できない証人水谷しづへの証言及び原告本人尋問結果部分を除く。)によれば、原告は市立四日市病院に転医した昭和五七年七月二七日以降岡病院医師に腰部痛を訴えたこともなく、また症状固定時までの間腰部痛について治療も受けていないし、他覚的な異常所見も認められないこと、また右膝機能不全に関しても他覚的な異常所見はないことが認められることに鑑みると、仮に原告主張のような症状があつたとしても本件事故との因果関係を認めることはできないというべきであるし、他に右原告主張を認めるに足る証拠はない。

三  請求原因3の事実は当事者間に争いがない。

右事実によれば被告稲葉は民法七〇九条により、被告組合は加害車の保有者として自賠法三条によりそれぞれ原告が本件事故により蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

四  本件事故により原告の蒙つた損害につき以下検討する。

1  治療費 金一九万一二七九円

通院交通費 金九万五三四〇円

前記二で認定の事実、前掲甲第一六号証(なお同号証一枚目の合計額金一万〇七七六円とあるは金一万〇三九一円の計算間違い)、第一七号証の一ないし一五九、成立に争いのない甲第二〇号証、証人坂野達雄、同水谷しづへの各証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は症状固定した昭和五八年三月三日以降も右手中指、薬指、小指の三指の疼痛、頭痛、頸部痛の自覚症状が強く、このためその対症療法として右同日以降も継続して市立四日市病院に通院し鎮痛剤の投与等を受けてきたもので、右手指の疼痛は現在に至るまで継続し、原告は現在も継続して通院していること、昭和五八年五月二日以降昭和六〇年一〇月一五日までの右市立四日市病院に原告が支払つた治療費は合計金一九万一二七九円であること及び右通院交通費として金九万五三四〇円を要したことが認められるから、右治療費及び通院交通費は本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

なお原告は、右の外昭和五八年五月以降の破田野ほねつぎ院での治療費(金二万五六〇〇円)も損害として請求するが、これについては、本件全証拠によるも本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。

2  入院雑費 金五万四六六五円

成立に争いのない甲第一九号証及び弁論の全趣旨によれば、田中外科及び市立四日市病院への合計四八日間の入院に際し、雑費として金五万四六六五円の支出を要したことが認められる。

3  休業損害 金一〇七二万七四三〇円

証人水谷しづへの証言により真正に成立したと認められる甲第四号証、第五号証の一ないし五六、第六号証の一ないし四七二、第七ないし第一〇号証、第一一号証の一ないし四、第一五号証、証人水谷しづへの証言及び原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の(一)ないし(四)の事実が認められる。

(一)  原告は三重陶業の屋号で陶器製造業を営んでいるもので、本件事故当時妻しづへのほか従業員八名程を使用し、素焼用の電気窯二基、本焼用のガス窯二基を備え、主として和食器を製造していたこと。

(二)  原告は右陶器製造業の材料仕入、素焼から焼成、出荷に至る作業全般を指揮監督し、とりわけ熟練を要する窯の操作、管理は原告が一手に行ない、また製品の製造計画や問屋との商談、折衡等も原告がこれを一人で行なつていたこと、一方妻しづへは伝票類の作成、整理、記帳等日常の経理面一切を担当し、また人手の足りない部分の作業を手伝う等原告と一体となつてその営業を支えてきたこと。

(三)  本件事故前の昭和五三年分から昭和五六年分の四年間の原告の右陶器製造業による売上及び純利益は請求原因4の(五)で原告が主張するとおりの金額に達する(右四年間の原告の申告所得額はこれを大幅に下回つているが、これは日常の経理を担当していた妻しづへが二重帳簿を作成し、所得を隠蔽して過少申告していたものである)が、右純利益算出の過程をみると、妻しづへの稼働分として各年度ともた専従者給与として昭和五三年分は金一七一万円、昭和五四年分は金一九五万円、昭和五五、五六年分は各金一八〇万円がそれぞれ控除されているものの、実際に右金額が給与として正確に支払われていた訳ではないし、前記原告及び妻しづへの役割分担からみて、営業利益に対する寄与の割合は原告七割、妻しづへ三割とみるのが相当であること。

そうすると右四年間の原告の右陶器製造業による年収額は、前記専従者給与額控除前の利益に原告の寄与分七割を乗じた額とみるのが相当であることとなり、その額は左記のとおりであつて、その平均年収額は金一〇七二万七四三〇円であること。

〈省略〉

(四)  本件事故による受傷により、症状固定の昭和五八年三月三日までの間、原告は実質的な稼働は全くできなかつたもので、原告の営業は妻しづへが原告に代つて指揮をとりこれを行なつてきたが、窯の操作の不慣れ等により原告の休業分の穴埋めをできなかつたことはもとより昭和五七年は金五〇〇万円を超える赤字を計上し、昭和五八年一月ないし三月も毎月赤字であつたこと。

以上の事実が認められ、これを覆すに足る証拠はない。

右事実によれば、原告は本件事故による受傷のため、昭和五七年三月二日から昭和五八年三月三日までの一年間休業を余儀なくされ、その間前記認定の平均年収額金一〇七二万七四三〇円の休業損害を蒙つたものと認められる。

4  逸失利益 金三六八七万三九三一円

前記二で認定の事実、証人水谷しづへの証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の(一)ないし(四)の事実が認められる

(一)  原告は症状固定した昭和五八年三月三日以降も、右手の薬指、中指、小指が十分に使えないため重い物を持つことができず、また記憶力・判断力の低下及び精神的不安定のため窯の操作や商談もおぼつかないことから、現在に至るもまつとうにできるのは完成した製品にシールを貼付するといつた簡易な作業に限られており、到底事故前のような稼働は期待できず、引続き妻しづへが原告に代つて営業の指揮をとつており、昭和五九年に入つて妻しづへも窯の操作等にも慣れてきたことから、ようやく同年度は年間金二〇〇万円程の黒字を計上できたものであること。

(二)  前記右手の三指が十分に使えないのは、第七頸神経根(右)損傷に基づくもので、その筋力低下、知覚障害の症状は一生涯継続することが確実視されるもので、用廃とまではいかないとしても障害部位が利き手の三指であることも考慮すると、労働能力に与える影響は少なからぬものがあること。

(三)  原告の陶器製造業の現実の収益の低下をもたらしている最大のものは窯の操作や商談がおぼつかない程の記憶力・判断力の低下及び精神的不安定にあると思われるが、その低下の程度は病的に異常なほどのものではないし、これらはいずれも心因性の症状であること。もつとも原告の年齢で、性格等に鑑みると心因性の症状とはいえこれが容易に回復する見込みはないこと。

(四)  原告は、昭和三年七月五日生れで症状固定した昭和五八年三月三日当時満五四歳であつたから、右症状固定時以降満六七歳までの一三年間なお稼働可能と推認できること。

以上の事実が認められ右認定を覆すに足る証拠はない。

右事実を総合すると、原告は前記二で認定の後遺障害により、残存稼働可能期間一三年間の全期間にわたつて労働能力を三五パーセント喪失したものと認めるのが相当であり、従つて前記3で認定の原告の本件事故前四年間の平均年収(金一〇七二万七四三〇円)を基礎としてその逸失利益の現価をホフマン方式(ホフマン係数九・八二一)により算出すると、次のとおり金三六八七万三九三一円となる。

10,727,430円×35%×9.821=36,873,931円

5  慰藉料 金六〇〇万円

これまで認定の本件事故の態様、原告の受傷の程度、入通院期間、後遺障害の程度やその他本件に表われた一切の事情を考慮し、本件の受傷及び後遺障害に対する慰藉料は金六〇〇万円が相当である。

6  損害のてん補

被告らが原告に対し既に金一四二九万円を支払つたことは当事者間に争いがないし、被告らの主張3に関しては原告は明らかに争つていないのでこれを自白したものとみなす。

従つて右金一四二九万円と被告組合が原告に代替労働を提供するのに要した費用金三三万八四〇〇円との合計金一四六二万八四〇〇円は既に弁済があつたものとして前記1ないし5の損害合計金五三九四万二六四五円から控除すべきである。

従つて残損害は金三九三一万四二四五円となる。

7  弁護士費用 金四〇〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は金四〇〇万円と認めるのが相当である。

右の次第で本件事故により原告の蒙つた損害の残合計は金四三三一万四二四五円となる。

五  以上の次第で、原告の本訴請求は、被告ら各自に対し、金四三三一万四二四五円と弁護士費用分を控除した内金三九三一万四二四五円に対する本件事故の日である昭和五七年三月二日から、弁護士費用分金四〇〇万円に対する本訴状の送達後である昭和五八年一〇月三〇日から、各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので、右限度でこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条一項を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 上田昭典)

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